日本ではお墓参りのときに欠かすことのできない菊の花。
気品がありながら、それでいて凛とした佇まいは、誰の心をも穏やかに整えてくれます。秋の代名詞でもある菊は、水墨画で描くことによって1年中季節を問わず楽しむことができます。
「水墨画の菊は初心者には、とてもレベルが高そうだけれども…」と思われがちですが、コツさえおさえてしまえば実は誰でも簡単に描くことができます。気分を盛り上げてくれる、上品で気品のある菊の花を描いていきましょう。
描き方
艶やかな菊の花は、花火のように四方八方にまう花の部分・細くたおやかな茎の部分・ぽってりふくよかな葉っぱの部分と3つのパーツに分かれます。菊の一番の特徴を決めるのは「花の部分」のため、このパーツは特に心をこめて描くとスマートに決まります。
まずは花火のような花の部分から。菊の花の芯となる真ん中の部分を定めて、そこから下から上へ上から横へ、ぼんぼりを作るように花びらを描いていきます。このとき筆先は散らばらないように丸くぎゅっと抑えながら描いていくと、まとまりのある表情が作りやすくなります。花びらは同じ方向を向くのではなく、中心に近い部分ほど上へ。茎に近い部分ほど「払う」イメージでやや垂れさがり気味に描くと、生花の良さが引き立ちます。
続いて描くのが真ん丸の葉っぱです。本物の菊を見るとよくわかるのですが、少し下膨れの様相を呈しているのが菊の葉の良さです。スマートに描きすぎず、少しふくよかなイメージで墨をたっぷり取って描いていくと菊らしくまとまりが出ます。
最後に描くのは茎の部分です。菊の茎は大輪の花と、健康的な葉っぱにおおわれて少ししか見え隠れしない特徴があります。あまりアピールし過ぎずに、足りないくらいを補う程度でOK。控えめに茎を描くことで、菊らしい表情をリアルに描き切ることができます。
コツ
水墨画で菊を描いていくときには、次のようなコツを知っておくと役立ちます。
花は薄めに、葉っぱは濃く仕上げる
とおり一辺倒に描いてしまうと、面白みやユーモラスさに欠けてしまうのが菊です。菊の形に慣れてきたら、墨の濃淡やグラデーションを楽しむことを味わってみましょう。
花の部分は白に近い控えめな黒を、葉っぱの部分は逆に黒に近い濃いめの黒を合わせていきます。同じ墨汁とは思えないくらい、力のある菊の絵を作ることができます。少しくらい絵のバランスに自信がなくても、これくらい差を付けて花と葉っぱの濃淡を使い分けることで、よりプロっぽい仕上がりを堪能することができます。
全体を曲げる・傾けてみる
水墨画の良いところは、イメージの世界をいくらでも膨らませることができることです。
花屋さんで販売されている菊の花は、真っすぐ茎が伸びたものだけがセレクトされて売られています。一方で自然界にある菊の花は、多少茎が曲がったり風に揺られて花が左右に傾いていることもあります。
こうした自然の風合いを紙の上にのせてあげると、よりイマジネーション豊かな絵が描けるようになります。紙の上にまっすぐ伸びた菊の花「少しマジメすぎるな…」と思ったら、あえて中心より斜めに傾けて、花や葉っぱを描いてみることにしましょう。少しだけ傾けて描くことによってマジメな印象が崩されて、野の花に近い雰囲気に収まります。
まるでそよ風に吹かれているような、ナチュラルで気品のある絵ができるから不思議です。
手順
菊の花は次のようなステップで描いていきます。
- 菊の花のセンターを決めて、薄い墨で花びらを描いていく
- 花びらは中心部ほど丸め、下の部分ほど散らすイメージで描く
- 濃い墨にて、ぽってり膨らみのある葉っぱを描く
- 葉っぱのすき間がある箇所に、控えめに枝を描いていく
- 葉っぱに葉脈を描いて、完成
難しいところ
菊の花が他の花と比べて「やりずらいな・難しいな」と感じてしまう理由として、次のような問題があります。
花の筆運びが難しい
菊の花は飛び散った火花や花火のように、縦横無尽に花びらが動きまわるイメージがあります。
しかしよく見てみると上のパーツほど「ぼんぼりのように丸く」下のパーツほど「水辺を泳ぐメダカのように細くかろやか」であることがわかります。丸いボールに下向きのメダカがくっ付いている…そんなイメージで筆を持ち替えていくと、案外すんなり描けることがあります。
慣れないうちは菊の花を描くだけで、神経をすり減らしてしまうこともあるかもしれません。
いきなり墨汁を付けてレッスンすると思い通りに手が動かないこともあるため、まずは手習いとして「真っ白い紙に筆ペンで描く練習をしてみること」もオススメです。本物の筆ほどリアルには描くことはできませんが、それでも筆の扱いや花の描き方がわかるようになるため上達が早くなります。
まとめ
水墨画の中でも、とくに人気があるのが艶やかで美しい菊の花です。日本では秋の花として親しまれる菊ですが、水墨画として楽しむことによって冬や春の季節も、観賞することができます。コツは花の筆運びと、花びらと葉っぱの色の濃淡です。
ぜひ最後まであきらめず、自分の花を咲かせてみてください。