水墨画で魚を描くのは、緻密な細密として描くというより、魚を一筆で表すような筆とともにある気質が必要です。
新鮮な生きた魚を描くのも、時間との勝負ですので、その表現をシンプルなまでの、速効性に任すという作用があります。そして、魚を表現するという現実主義が表れる時に、魚の画としての表現が、視覚者にどのアピールポイントを持っているかを計算し尽くす、頭脳の仕事も必要になります。
描き方
水墨画に依る魚の描き方は、魚の勢いやその生鮮なる様相を描くのが、その手法と呼ばれます。
魚というものは、海の中にいて、海の中の様相は描けるものではありません。ですので、魚が新鮮なうちに、その生きている様を描くと、まるで生きているような、そして、泳いでいるような魚として描けるようになります。
魚は、水墨画で有名な鯉もありますが、その生体研究として日本画での細密画という分類もあります。これは、魚の細密画で、カラー版になっていますが、水墨画では、墨の濃淡だけで、魚を表します。墨の濃淡で魚をあらわすとは、色彩だけではない、魚の躍動感という意があり、それによって、生きているような魚のイメージが水墨画の画面に定着します。
コツ
魚を水墨画で描く時のコツは、魚の各部位の名称を覚えておくと、役に立ちます。
これは、背びれ・胸びれ・尾びれというような、ひれの名称別のパーツに分ける考え方になります。たとえ、水墨画の一筆で一気に描き上げるとしても、それぞれの魚の各部位がどのように、魚の胴体に結合しているのかを正確に、肉眼で認証し、認識してからにします。
特に、魚は生鮮なるものですので、放置しておけば異臭を放つ様相があります。短時間で描くには、魚を墨で表す、最短である方式を採用し、習作用として描くのであれば、冷凍冷蔵庫との行ったり来たりで、その魚を習得しましょう。
魚の鮮度も絵に関与しますので、魚の眼が生きているか、そしてひれは新鮮かどうかによって、絵の画量に響くことも忘れないようにしてください。絵の中に潜む生命感が水墨画で表されるように、魚の生きているイメージに近づけて、速攻に描き切るようにして水墨画をやります。
水墨画は短時間で描ける点が、生きている魚に対する方策として便利でしょう。
手順
手順としては、魚も脊柱動物ですので、魚の背骨がどのように魚の胴体に入っているかを確認してください。
魚をさばく経験のある人なら、その魚の支柱である脊柱のイメージが付きやすくなります。そして、魚の胴体にヒレがどのような角度で付着しているかを立体的に認識するようにします。そのうえで、魚の部分である肝要な眼の部分が全体のどこについているのか、そして眼と呼応してエラがどのように広がっているかを確認して描きます。
水墨画では眼は命と言われます。ですので、魚の眼の周囲がどのような構造であるかということと、眼自体の黒の点がどのように、水墨画のモノトーンの世界に表れるかを、よく研究します。
これは、濃淡のグラデーション効果のみで、水墨画のイメージとする、コントラスト理論よりも複雑な方式になります。ですので、眼が薄れてしまわないように、あえて鱗の一枚は薄く描くようにします。ピンポイントで魚の重要な箇所を見分けるようにしてください。
難しいところ
魚の細部にこだわるあまり、魚としてのイメージがちぐはぐになる恐れがあります。これは、鱗やひれの筋を、局所的に見すぎてしまう、人間の眼の能力不足が原因とされます。
克明に描くというのは、その水墨画のイメージがどこにあるのか、忘れないようにすることです。つまり、水墨画でその表現としたいのは、ひれや鱗の一枚一枚ではなく、魚の水墨を画面に定着させる時の、視覚者への伝達事項になります。これは、画の表現方式になります。魚の鮮度や躍動感を描きたいのであれば、あえて、詳細な鱗の一枚の方策は省くようにします。
水墨画や日本画では、その鱗はあえてシンボルとして描かれますので、ひれの筋の一本を数えたり、鱗の枚数を探るのは無意味なのです。それが、魚であると認証できるようなかたちで、全体を捉えることが先決です。
魚として水墨画に表す重要さは、日本画のような克明さにあるのではありません。魚がどのようなイメージで墨と筆で表すことができるのかを、コントラストを越えて、その表現手法とします。魚で重要なのは、それが生きているというイメージにほかなりません。
まとめ
水墨画における魚を描くというのは、魚が海の中で描けないという力学を逆手にとったものになります。ですので、水族館や水槽の中で泳ぐ魚をデッサンしてみたり、その習作とすることは、絵の技量として役立ちます。
魚をその画の中に収めるには、水墨画の伝達するイメージが何であるかを、統一的に捉えておく必要があり、自分が何を表現するのかは、魚の克明な描写より、魚が作家の眼にどのように映っているのかを示すものです。